傀儡の恋
13
キラにあのMSを渡したのはラクス・クラインであったらしい。そして、それを口実にパトリックはシーゲルとラクスを排除しようと動いたそうだ。
そこまでは予想の範囲内だったと言っていい。
だが、アスランまでもが新型とともに離反するとは思っていなかった。
「いや……キラに執着していた彼であればあり得ることか」
彼にとってはプラントよりもキラの方が重要だったと言うことだろう。
本国の要職に就いているパトリックが彼の行動でどのような立場に追い込まれるかも考えていないに決まっている。
いや、考えてもキラを選んだのかもしれない。
「その幼さが少しうらやましいね」
周囲のことを考えずに自分の感情だけで進んでいく。それが出来るのは幼い証拠だ。
それがうらやましいと思うのは、自分に残された時間がないからだろう。
「私に、あと十年、時間があれば……」
全てを捨ててあの子のところに押しかけて行ったかもしれない。
いや、それ以前にいこの場にいなかったのではないか。
「言っても仕方がないことだがね」
今更、とため息をつく。
「この鬱憤はお仕置きをかねてアスランに引き受けてもらうべきだろうね」
八つ当たりとはわかっていても、と続ける。
その時だ。端末が呼び出し音を響かせ始めた。
「何かあったかな?」
厄介事でなければいいが。そう思いながらも手を伸ばす。
「私だ。何があった?」
相手が口を開く前にこう問いかける。
『地球軍がまたオーブに侵攻しました。オーブにあるマスドライバーが目的だったものと思われます』
地球軍を大量に宇宙にあげるにはマスドライバーが必要なのだろう。確かに自分でも確保するように命じる。
だが、オーブが簡単にそれを渡すだろうか。
「新しい情報が入り次第、すぐに連絡を」
嫌な予感がする。そう思いながら言葉を口にした。
『了解しました』
そう告げると相手は通信を終わらせる。
「これでバランスが大きく変わるな」
それは本来喜ぶべきことだ。バランスが崩れた天秤は小さな衝撃でも簡単に倒れる。それで世界は破滅へと向かうだろう。
しかし、あそこにはキラ達がいた。
アスランを含めた他の人間はどうでもいい。だが、キラだけは無事でいて欲しいと思う。
「我ながら勝手だね」
キラならば全員一緒に助かるか、あるいは一緒に死のうと考えるのではないか。
しかし、周囲の大人達はどうだろう。自分達を盾に若者を安全な場所に逃がそうとするのではないか。そして、機を待つように告げるだろう。
自分ならそうする、と言った方が正しいのか。
「とりあえず、次の情報を待つしかないね」
ザフトの情報局は有能だから、きちんと顛末を報告してくれるだろう。
「ギルは忙しいだろうな」
オーブの国力から考えて地球軍を退けられるとは思えない。まして、内部にあちらの協力者がいる状況では、だ。
おそらく、今後、オーブから物資が入って来なくなるだろう。地球のザフトの勢力圏も減っている以上、国民の生活はかなり厳しくなるのではないか。
だが、それは自分にとっては有利だと言える。
「……パトリック・ザラをうまく利用できれば、計画は8割完了したとみていいだろうね」
後は最後の舞台を整えればいい。
それがいつになるか。それは自分の体調次第ではないか。
「最後の障害は、やはり君になるのかな?」
キラ、と口の中だけで付け加える。その瞬間、少しだけ心の中に暖かなものが生まれた。